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【なぜ?】退職・異動で現場が回らなくなる本当の原因|属人化が招くキケン

【なぜ?】退職・異動で現場が回らなくなる本当の原因|属人化が招くキケン

以前、ある会社の支援に入った際、ベテラン社員が退職した直後に、請求処理が一時的に止まってしまった場面に立ち会いました。
マニュアルは存在していたものの、「この取引先だけはこの順番で!」「この場合は例外対応だから…」といった判断が、その人しか分からない状態になっていたのです。結果として、社内は一週間ほど混乱し、「もっと早く共有しておけばよかった」という声だけが残りました。

人の異動や退職をきっかけに、仕事に必要な知識や判断の背景が一気に失われてしまう現象を、『ナレッジロス(Knowledge Loss)』と呼びます。
単にマニュアルが消えるという話ではありません。業務を回すために必要な「判断の理由」「過去の失敗から得た勘どころ」「関係者との力学」といった、組織の“記憶”がごっそり抜け落ちてしまう状態のことです。

そして怖いのは、ナレッジロスはある日突然起きているように見えて、実は静かに進行しています。
「その件、〇〇さんじゃないと分からない」「今、聞ける人がいない」「確認に時間がかかって止まっている」
つまり、問題は“その人がいない”ことではなく、その人に集まってしまった状態にあります。

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属人化は、現場の努力や優秀さの結果として生まれます。
忙しい中で最短距離で成果を出すなら、できる人に寄せるほうが合理的だからです。ところが、その合理性が積み重なった先にあるのが、知識が偏ってのちに消えてしまう「ナレッジロス」です。
そして、これは一部の部署の困りごとだけではなく、経営リスクとして表面化します。

実際、人手不足が深刻化する中で「従業員の退職」がきっかけになり、経営が立ち行かなくなるケースも報告されています。帝国データバンクの分析では、2024年に「従業員退職型」の倒産が87件と過去最多になったとされています。
もちろん退職そのものが悪いのではありません。問題は、退職によって組織の機能が崩れるほど、仕事が「人」に寄りかかっているということです。

属人化とは何か?「優秀さ」がリスクに変わる瞬間

属人化とは、業務が回っているように見えて、実際にはスキル・判断・人脈・暗黙知が特定の個人に集中している状態です。
よく誤解されますが、属人化は「怠慢」や「共有しない性格」の問題ではありません。むしろ、現場の中では“褒められる行動”として進行します。

たとえば、こんな状態です☟

  • 問い合わせ対応が速い人に、質問や判断が集まる

  • 「これだけはミスできない」業務ほど、ベテランに寄せたくなる

  • 取引先や社内キーパーソンとの関係が、個人の信頼で成立している

  • トラブルの芽を先回りできる人の“勘”で最終判断が決まる

この状況自体は、短期的には強く、良い結果が出やすい判断だったりします。
ところが、「シンプルな属人化」が「危険な属人化」へ変わる瞬間があります。それは、仕事が回っている理由が、仕組みではなく「その人の頑張りのみ」に置き換わったときです。

ナレッジロスは、なぜ突然起きたように見えるのか?

厄介なことは、ナレッジロスが“突然”起きたように見える点にあります。
退職や異動のタイミングで現場が混乱すると、「急に穴が空いた!」と感じます。しかし実態は逆で、ナレッジロスは日常の中で静かに進行しています。退職や異動は、単にそれを表面化させる「引き金」に過ぎません。

なぜ静かに進むのか?その理由はシンプルです。
業務が忙しいとき、私たちは“共有のための時間”を削ってしまいがちです。

◎判断の背景を説明する代わりに結論だけを伝える。
◎資料は最低限になり、重要な情報は口頭やチャットの断片として散らばる。

こうやって「その人の頭の中にある状態」が当たり前になります。問題が見えにくいまま積み上がり、ある日、欠勤・退職・異動で一気に顕在化する。だから「突然」に見えるのです。

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属人化を生む3つの構造(中小企業に多いパターン)

多くの場合、属人化を生むのは個人ではなく、仕組みと評価です。中小企業で起きやすい構造を3つに分けて整理していきます。

① 忙しさによる「共有する時間がない」構造

属人化が進む組織ほど、現場は常に余白がありません。
「誰かに教える」「資料を整える」「判断の理由を言語化する」
これらは重要ですが、緊急度が低いように見えやすい。結果として、締切や顧客対応が優先され、“共有しないまま回す”ことが常態化します。

② 判断が経験に依存し、言語化されていない構造

例えば、同じ申請ひとつでも、「通す」・「止める」・「上に相談する」の判断が人によって違います。クレーム対応のどこで譲歩し、どこで線を引くかが、担当者の経験則で決まる。こうした判断軸が言語化されないまま残ると、代替が効かなくなってしまいます。

中小企業では、とくに中核人材の不足感が大きいことが指摘されています。中小企業白書では、中核人材について7割超が「不足」と回答しているとされています。少人数で回している状況では、判断の属人化が“組織の弱点”になりかねません。

③ 「任せきり」「頼りきり」が評価される文化

属人化が根づく組織には、無意識の評価のクセがあります。
「〇〇さんに任せておけば安心だ!」「あの人は優秀だから一人で回せる」「彼は理解しているから、細かい説明は不要」
こうした言葉は、頼もしさの裏側で、知識が個人に留まる構造を固定化していきます。
もちろん本人も悪気はありません。むしろ「自分がやったほうが早い」「周囲に負担をかけたくない」と思って背負います。結果として、属人化は強化されていき、組織は“短期の安定”と引き換えに“長期の脆さ”を抱え込みます。

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経営・人事への影響

属人化は現場課題に見えますが、「経営」「人事」の課題に直結します。一つ一つ紐解いていきましょう。

まず、業務がブラックボックス化します。「何をどう決めているのか?」が共有されていないため、改善の議論ができない。結果、業務改革やDXの議題が出ても、現場が動きにくくなります。

次に、教育コストが増大します。新人や若手が育たない原因は、本人の意欲より「教えられる形で仕事が存在していない」ことが多い。属人化した業務は、教える側も教えられない側も疲弊し、育成が止まってしまいます。

さらに、管理職が“調整役”に追われ続けます。現場の判断が揃わないため、確認が増え、承認が増え、結局マネジャーが毎回火消しをする。そして、マネジメントの本来業務(人を育て、仕組みを整える)が後回しになります。

最後に、変革が進まなくなります。属人化が進んだ組織ほど「その人が忙しいから今は無理」が増えます。変えるべきだと分かっていても変えられない。そして、これが経営体質として固定化するのです。

「マニュアル化」だけでは解決しない理由

では、これらの対策となると、まず「マニュアルを見直そう!」となりがちです。もちろん必要なことですが、それだけで解決するケースは多くありません。

第一に、マニュアルは“情報”であって“判断”ではないからです。
手順が書いてあっても、例外対応や優先順位、判断の線引きがないと、結局「分かる人に聞く」へ戻ります。

第二に、書いても更新されない問題があります。
忙しい組織ほど、作った瞬間がピークになりやすいのです。
現場は変化します。顧客も変わります。制度も変わります。更新されないマニュアルは、むしろ混乱の種になってしまうのです。

第三に、「見れば分かる」は幻想になりやすいからです。
その業務に関する文章を読んで理解できる人は、すでに前提知識をある程度持っています。本当に必要なのは、経験が浅い人でも判断できるように、背景と意図が共有されている状態です。

つまり、属人化対策=文書化だけではないということです。文書化は手段の一つであり、核心は「判断の背景が残る設計」なのです。

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明日からできる、改善ポイント

では、何から変えるべきなのでしょうか?
「誰ができるか」ではなく「どう判断しているか」に焦点を当てることです。そこで、情報を共有していく上で、以下のような”問い”が効いてきます。

◎この業務で、一番ミスすると痛いポイントはどこか
◎その時、何を基準にOK/NGを判断しているのか
◎例外は何があり、誰に相談するのか
◎その判断の背景には、過去のどんな失敗・学びがあるのか

つまり、共有の単位は「全部」ではなく「要点」でいいのです。すべてを書き残すのは現実的ではありません。残すべきは、”再現性の核となる判断軸”です。

そして、人事・管理職が果たすべき役割は、現場に「共有しなさい」と要求することではありません。共有が起きるように、時間の確保・評価の仕方・場の設計を整えることです。

そして、ここからは、今日からでも始められる「小さな設計」を紹介します。大げさな制度改革ではなく、日常業務に溶けるやり方です。

まず、会議と議事録。例えば、議事録に次の3点「決定事項」「未決事項」「判断の前提(なぜそう決めたか)」を入れるだけで、認識ズレは減ります。前提が残るだけで、後から読んだ人が解釈しやすくなります。

次に、1on1や短い面談。育成面談が近況確認だけで終わると、知識は溜まりません。「今週迷った判断は何か」「その時どう考えたか」を一つだけ話してみる。判断が共有され、属人化が薄まっていきます。

さらに、「教える人」だけに負荷をかけない工夫を入れます。例えば、案件の振り返りを“当事者だけ”で終わらせず、要点を短く共有する。新人が質問しやすい導線を作る。テンプレート化できる判断はテンプレートに寄せる。

重要なのは、属人化を責めないということです。
「共有できていないのはダメ」という空気が出ると、現場は沈黙します。責めたいのではなく、会社やチームとしてリスクを下げたい。その意図が伝わると、協力が得やすくなります。

まとめ:属人化は悪ではない。設計されていないことが問題である

属人化は、自然に起きます。特に人が限られ、守備範囲が広い中小企業では、ある程度は避けられません。問題は属人化そのものではなく、放置されていることです。

ナレッジロスは、退職や異動のたびに現場を止め、教育を止め、変革を止めます。そして時に、経営の継続性すら揺らがせます。

属人化をゼロにする必要はありません。大切なのは、個人の頑張りを“組織やチームの力”に変える設計を、少しずつ積み上げることです。
「判断の背景を残す」「共有が起きる場を作る」「評価と時間の設計を変える」こんな小さな積み重ねが、強さになります。

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【引用】TDB+1中小企業庁+1