末永ブログ
「正論」が部下を辞めさせる|心理学で読み解く”マネジメント”の落とし穴
2026年3月9日

こんにちは、末永イノベーション経営の広報Yです。
先日、昔の同僚に久しぶりに会ったときのこと。
彼女は同僚時代からチームをまとめる立場にいて、面倒見の良さで周りから慕われている存在でした。
そんな彼女から、こんな”相談”をされました。
彼女のチームの後輩が、会議の後に「ちょっといいですか?」と声をかけてきたとのこと。
その後輩は進行中のプロジェクトについて、いくつか質問をしてきました。
そこで彼女は、経験から導き出せる答えを、一つ一つ丁寧に説明。
「ありがとうございます。分かりました。」と後輩は言って、自席に戻っていきました。
それから数週間後、その後輩は突然、退職の意思を伝えてきました。
人事部との面談で、こう言っていた、と彼女は風の噂で聞きました。
「相談しても、いつも正論が返ってくるだけで、本当の悩みは聞いてもらえなかった」
「理解してもらえていないと感じた」
あの日、その後輩が本当に言いたかったのは、プロジェクトの進め方についてではなかったのかもしれない。もっと根本的な不安や迷いを抱えていたのに、表面的な質問にだけ答えて、「理解した」と思い込んでしまっていたと、後悔を滲ませた表情で、彼女は呟きました。

なぜ人は「分かったつもり」になるのか?
私たちの脳には、ちょっと厄介な癖があります。
新しい情報が入ってくると、脳は猛スピードで過去の記憶と照合して、「これは知っているパターンだ」と判断した瞬間に「分かった!」という感覚を生み出してしまいます。
だから「理解した」という感覚は、本当に理解できた証拠にはなりません。既知のパターンに当てはめて、自分を納得させているだけのことが、実はとても多いんです。
心理学者ダニングとクルーガーの研究によれば、「人は自分の理解力を大きく過大評価する傾向がある」といいます。
複雑な仕組みを説明できる自信と、実際の正確性を比べると、自信の高さが能力を大きく上回る。
つまり私たちは、「理解していないことすら理解できていない」状態で日々を過ごしているわけです。
そして職場で年次を重ねてくると、「分からない」と言いづらくなっていきます。
「それ、どういう意味ですか?」と聞けば、「こんなことも知らないのか」と思われるんじゃないだろうか、そんな不安が、だんだん口を重くさせます。
分かったふりをして、察したつもりで話を進めて、自分の物差しだけで相手を「理解した気」になりながら、大切な場面をやり過ごしていく。そんなことが、じつは日常的に起きています。

実は、「優しさ」が対話を殺す
先ほどの同僚が、もう一つこんな話をしてくれました。
彼女のチームでは毎週月曜に進捗会議があって、いつも和やかに・滞りなく終わっていたといいます。
発言も活発で、「うちはいいチームだ」と彼女自身も感じていました。
ところがある日、メンバーの一人が「実は何ヶ月も前から、このやり方に無理があると思っていた」と打ち明けました。周りに聞いてみると、同じように感じていたメンバーが他にも2人いたそうです。
なぜ言わなかったのか?と尋ねると、全員が同じことを答えたそうです。
「みんな納得しているみたいだったから、自分だけがおかしいのかと思って」
誰も本当のことを言わなくなった職場では、結局、誰のことも分からなくなっていきます。思いやりのつもりが、皮肉なことに人と人を遠ざけてしまうんです。
しかも、上手くいっているチームほどこの罠にはまりやすかったりします。
つまり、成功しているという実績が「今のやり方は正しい」という空気を作り出して、疑問を持つこと自体がチームへの裏切りみたいに感じられてしまうということです。
重大な失敗が起きる前には、たいてい「誰かが気づいていた」という事実があります。でもその声は、「分かっている」という集団の思い込みに、静かにかき消されていきやすいものです。
これは特定の組織だけの話ではなくて、いろんな職場で繰り返されてきたことだと思います。
かの有名な関ヶ原の戦い(1600年)この戦いにも同じ現象がありました。
若将・小早川秀秋の裏切りを「気づいていた人」はいました。
小早川は本来、西軍の一員として参戦していた武将です。しかし盟友・大谷吉継は、その”離反”をいち早く予測していました。
大谷は西軍きっての知将と呼ばれた人物で、小早川の陣がある方向に「土塁」や「空堀」をひそかに準備していたことが、現地の発掘調査でも確認されています。
それでも西軍は崩れたのです。
気づいていても、組織全体が「まさか、味方が寝返るはずがない」という空気に覆われていると、備えは機能しません。

「うちはこれでやってきた」
「これがうちのやり方だ」
よく聞く言葉ではありますが、こうなってくると、チームは少しずつ変化に鈍くなり始めているのかもしれません。
過去の成功体験は、じわじわと次の判断を鈍らせていきます。
変化が速すぎる現代では、「これまで通り」の延長で未来を考えることには、思っている以上にリスクがあります。
「分かっているから。」という感覚が、気づかないうちに一番大きな盲点を作ってしまいがちです。
努力しているのに結果が出ない人の、共通した落とし穴
「頑張っているのに評価されない」
「忙しいのに成果が出ない」
こういった悩みの根っこにも、「分かったつもり」の問題が潜んでいることが多いです。
多くの職場に、こういった真面目な人がいると思います。
朝一番に来て、夜遅くまで残っている。
メールの返信は誰よりも早く、頼まれた仕事は必ず引き受ける。
でも、なぜかいつも「惜しい」という評価に止まってしまう。仕事への熱量は誰にも負けないのに、毎回の評価面談で「もう一歩」と言われ続けてしまう。
上司からは、「君がやっていることの半分は、本来やらなくていいことだと思う。”本当に求められていること”に、もっと時間を使ってほしい」と言われてしまう。
何をするかより、「何をしないか」を決められるか。
そこが、実は一番難しくて、一番大事なところだったりします。
やらないことを決めるためには、何が本質なのかを自分で分かっていないといけません。そこを曖昧にしたまま「とにかく頑張る」を続けると、忙しさという名の思考停止に、知らないうちにはまってしまいます。
「忙しい人ほど、振り返ってみると何も残っていない」というのは、少し耳が痛いのですが、よくある話だと思います。
「分からない」と言える人が、いちばん強い
職場では、いちばん大切なことほど、なぜか口にしにくいものです。
「ありがとう」「助かっています」「〇〇さんが対応してくれて良かった」
シンプルな言葉ほど言えないまま、日々が過ぎていきます。
「言わなくても伝わっているはずだ」「態度で示せばわかるだろう」そんなふうに、どこかで思っているからなのかもしれません。
先ほどの前職同僚が最後にこんな話をしてくれました。
その後輩が去ってしばらく経ったある日、別のチームメンバーに「あなたのこと、信頼しているよ」と伝えたら、その人がひどく驚いた顔をしたといいます。
「そんなふうに思っていてくれたんですか?全然知らなかった」と。
彼女はそのとき初めて気づいたと言っていました。
自分の中では「伝えていたつもり」だったことが、相手には一度も届いていなかった、と。
「理解した」「伝わっているはず」という感覚は、実は”対話”が止まっているサインかもしれません。
”本当の理解”というのは、一度できたら終わりではなくて、毎日少しずつ、相手と向き合い続けることでしか積み上がっていかないんだと思います。

どの分野の話にも、共通する出口があります。
それは、「分からない」と認めること。問い続けること。対話を諦めないこと。です。
「分からない」と口にするのは、弱さじゃありません。
むしろ、本当に相手を理解しようとしている人だけが言える言葉だと思います。「分かっている」という思い込みは、新しい気づきを遠ざけて、世界をどんどん狭くしていきます。
だからこそ、今日からひとつだけ試してみてほしいことがあります。会議が終わったあと、「分かりました」と言った相手に、もう一度だけ聞いてみること。
「本当に、何か困っていることはないですか?」
分かったつもりになると、考えなくなってしまいます。でも、それに気づいた日から、もう一度、ちゃんと考えることができる。
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