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”若手が意見を言わない”職場の問題:「学習された沈黙」が組織を壊す

”若手が意見を言わない”職場の問題:「学習された沈黙」が組織を壊す

沈黙の背景にあるものとは?

「何か他に意見はある?」
会議室に、重たい沈黙が流れる。視線を落とす若手社員。PCの画面を見続ける者、ノートを見つめる者。誰も口を開かない。

「……じゃあ、この方向で進めようか」
結局、いつものメンバーがいつものように決める。若手社員は議事録を取るだけ。毎回同じ光景が繰り返される。

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こんな場面に、心当たりがある人も少なくないと思います。

「最近の若手は消極的だ」「指示待ちする人が多い」そう片づけてしまうのは簡単ですが、でも本当にそうなのでしょうか?
若手社員が黙っているのは、もしかすると無意識に作り上げてきた組織やチームの”空気”が原因かもしれません。

1.「どうせ言っても変わらない」を学習した若手の頭の中

ある調査によれば、「自分のチームで心理的安全性が高い」と感じている若手社員は、わずか18%だといいます。つまり、残りの8割以上が、職場で本音を言いづらいと感じているということです。
しかし、この数字以上にリアルなのは、若手が上司に意見を言わない理由の第1位が「伝えても何も変わらないから」という事実です。

入社したての頃は意見を言おうとしていたはずです。
会議で手を挙げた瞬間に「まあそれは現実的じゃないな」と一蹴された。業務改善のアイデアを出したら「うちには合わないから」で終わった。1on1で本音を話したら「考えが甘い」と鼻で笑われた。
こういった経験を2回・3回と重ねるうちに「ああ、ここでは意見を言わないほうが安全なんだ」と学習するんです。

心理学の世界では、これを「学習性無力感」と呼びます。
何度努力しても状況が変わらないと、人はやがて行動すること自体を諦めてしまう。
つまり、沈黙するということは、消極的な資質というだけでなく、組織によって無意識に培った「防衛本能」でもあるかもしれません。

2.会議室では沈黙・廊下では本音──黙ってしまう会議の構造

ある会社の営業会議。部長が一方的に話し続けて30分。資料を映して説明して、最後に「質問は?」と聞く。誰も手を挙げない。

「じゃあ、このまま進めるから」

その1時間後、喫煙所で若手社員が先輩社員に言います。
「あのやり方、絶対うまくいかないですよね~」
「だよな。でも、まぁ言えないよな」
こんな会話が繰り広げられています。

会議室では何も言わなかったが、外では饒舌に語る。これは、この2人の社員が悪いのでしょうか?紐解いて考えていきましょう。

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「無口だった人が、別の人の前では饒舌になる場面」を見たことがある人も多いと思います。つまり、私たちは、”相手”や”空気感”によって発言する内容・頻度が劇的に変わるということです。

ここでのポイントは、若手社員の”性格”だけが原因ではなく、会議の”構造”にも原因があるというです。上司が一方的に話す。誰かが発言しようとすると、途中で遮る。反対意見には、すぐに反論する。そのような空気の中で、積極的に意見を言える人は多くないはずです。

3.「怒られたくない」本音の裏にある心理

もう一つ、”ある心理”がこの問題の背景にはあります。

パーソル総合研究所の調査では、若年層に「拒否回避志向」が強いという結果が出ています。簡単に言えば、「失敗したくない」「否定されたくない」「怒られたくない」という心理です。

これを受けて、「だから最近の若手は打たれ弱いんだ」と思った人もいるかもしれませんが、ここで少し立ち止まって考えてみましょう

拒否回避志向がある人にとっては「意見を言う」ことが”リスク”だということです。自分の考えをさらけ出すこと。間違っていたら恥ずかしいし、否定されたら傷つく。
ベテランの社員だって、本音を言った際に「それは違う」と言われるのは怖い。それが若手社員ならなおさらです。

そして、若手社員は先輩たちの”前例”をしっかりと見ています。
先輩が上司に意見を言ってどう扱われたか。「やっぱり分かっていないな」と一刀両断された先輩。上司からの扱いが急に悪くなった先輩。
だから、黙る。目立たない。波風を立てない。それが一番安全だと学習するんです。

4.「心理的安全性」だけでは解決しない

ここ数年「心理的安全性」という言葉をよく見かけるようになりました。

もともとは、ハーバードのエイミー・エドモンドソン教授により提唱され、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義されています。
そして、Google社が2015年に「チームの生産性・パフォーマンスを高める最も重要な要素は、心理的安全性である」と発表して以降、世界的に注目されるようになりました。

「心理的安全性」は確かに大事です。でも、それだけでは足りないんです。

リクルートワークス研究所の研究で、興味深い事実が明らかになりました。心理的安全性が高いだけの職場、いわば”ゆるい職場”では、若手は活躍できていないし、むしろ離職意向が高いという事実です。

一体なぜなのでしょうか?
「何を言っても怒られない」というのは確かに安心です。でも、「ここで働いていて成長できるのか」という実感がなければ、組織に”意味”を見出せない。ぬるま湯に浸かっているような感覚が長引くと、やがて「ここじゃダメだ」「自分は大丈夫か」と不安になり見切りをつけてしまう。

つまり「安心して意見が言える」だけでなく、「意見を言うことに意味がある」と思える環境が必要だということです。
自分の意見が組織を動かす。挑戦する機会がある。成長を実感できる。そういう”手応え”があって初めて、主体的に動き始めるのです。

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5.沈黙が”組織”に与えるダメージ

次に、若手社員が黙ったままだと”組織”としてどうなっていくのか。深堀りして考えていきましょう。

まず、人が育ちません。意見を言う経験が少ないと、自分の考えを整理する力も、他者と議論する力も育ちにくい。そのまま年齢を重ねて、気づけば中堅社員になっていることも往々にしてあります。自分で考えて動く力がないと、今度は部下に何も教えられません。
そして、仕事ができる人ほど辞めていきます。成長意欲の高い若手は「この環境では自分を活かせない」と判断して、さっさと転職してしまう。

さらに、組織全体が硬直化します。新しいアイデアが生まれない。問題があっても誰も声を上げない。イノベーションが起きづらい・・・気づけば、変化の激しい時代に取り残されてしまいます。

つまり、若手社員の沈黙を放置することは、組織の未来を蝕んでいくことにも繋がるのです。

6.部下が本音を言える上司/言えない上司

ここで、少し自問自答してみましょう。

「自分は、部下や後輩から意見を言いやすい人だろうか?」
(部下や後輩がいない人は、自分が上司になった姿をイメージしてみましょう)
ついつい無意識のうちに、部下の発言を遮っていませんか。「でも」「いや、それは」と、つい反論から入っていませんか。1on1で、自分ばかり話していませんか。

そして、もう一点重要なことが、上司自身が組織の中で「意見を言える」存在でなければ、部下に「意見を言ってほしい」と求めても説得力がないということです。
上司が会議で黙っている。経営層の顔色ばかり伺って陰で愚痴しか言わない。上司が常に萎縮している姿を見せていたら、部下もまた沈黙を選びやすくなります。
私たちが想像する以上に、部下は上司の姿を”見ている”ということです。

7.今日からできる5つの実践

では、この問題に対してどう対応していけばいいのでしょうか?
すぐに劇的な変化を起こすのは難しいかもしれませんが、放置しておくことが一番の悪手です。取り入れやすい5つの改善点で、まずはトライすることが大切です。

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①先に意見を聞く

いつも上司や先輩から話し始めていませんか?順番を逆にするだけで、場の空気は全く別のものに変わります。
「◯◯さん、どう思う?」と聞いてみる。最初は相手も戸惑うかもしれません。しかし「自分の意見を求められている」という実感が、発言のハードルを下げていきます。

②「意見が採用された」事実を見せる

「言っても無駄だ」という無力感を打破するには、「行動することに意味がある」と示すことが大切です。意見を取り入れて改善した事例を、具体的に共有する。「あの時の意見、役に立ったよ」と伝える。そういった小さな成功体験の積み重ねが、発言への喜びと「言ってもいいんだ」という安心感を育てます。

③話しすぎない

直近で部下・後輩とした会話を思い出してみましょう。相手の話を聞く時間はどれくらいありましたか。自分は何割くらい話していましたか。
実は、想像する以上に、上司側が話し続けていることが多いものです。
沈黙を恐れず、相手が話し出すまで待ってみる。対話は、一方通行では成り立ちません。

④失敗を責めず、学びに変える

失敗を隠すのではなく「挑戦した証」として共有する文化をつくっている企業もあります。失敗を責めるのではなく、「そこから何を学んだか」を対話する。こうした姿勢が、挑戦する意欲を育てます。

⑤仕事を任せ、期待を伝える

若手社員が定着する理由として、「仕事を任されたから」という声があります。若くても責任ある仕事を任せて「期待している」と明確に伝える。
ただし、任せっぱなしではなく、適切なサポートとフィードバックをセットにすることが大前提です。

8.まとめ

意見を言わないのは、個人の資質の問題だけではありません。それは、組織やチームの構造が育てた「学習された沈黙」でもあるということです。
過去の経験から「言っても無駄だ」と学習し、拒否回避志向によって「否定されたくない」と感じ、成長実感がなければ「言う意味がない」と判断する。こうしたメカニズムが重なり合って、沈黙は生まれています。

「うちの若手は意見を言わない」と嘆く前に、「うちのチーム・組織は、若手が意見を言える構造になっているか?」と問い直してみることが必要です。
会議の進め方は?上司の話し方は?失敗への向き合い方は?若手に任せている仕事は?

相手の資質を責めるより先に、まずはこういった言動の一つひとつを振り返ってみることが、チームや組織の未来を変える第一歩になります。


【調査引用元】
1. 株式会社タバネル「若手社員の心理的安全性調査」2.コーチ・エィ「WEEKLY GLOBAL COACH」「率直な意見を言うかどうか」に関する内容
3. パーソル総合研究所「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」4. リクルートワークス研究所「大手企業における若手育成状況調査」5. アデコ株式会社「新卒入社3年以内離職の理由に関する調査」


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