末永ブログ
その仕事、本当にその人しかできませんか?|【社内人材市場】という考え方
2026年3月4日

「人が足りない」じゃない。「動かせなくなっている」
夕方のオフィスで、ふとこんな会話を耳にしました。
「この案件、結局Aさんに頼むしかないな。」その場にいる全員がそれを知っていて、でも誰も「ほかに誰かいないの?」と言えない、そんな空気。
人がいないわけではない。能力が足りないわけでもない。ただ、「この仕事はこの人」という前提が、いつの間にか外せなくなっている。
採用は難しい。育てても辞める。気がつけば、仕事は特定の人に集中し、他の人には「手伝いたい気持ち」があっても関われない状態になっている。
これは、自分の会社だけの話ではありません。実は、世界の大手企業も、まさに同じ壁にぶつかっています。
大手企業は「採用」では解決しなかった
この問題に先に気づいたのが、海外の大企業たちです。
彼らが行き着いた答えは、「もっと採用する」ではなく、「社内の人をどう動かすか」という視点の転換でした。その中から、特に参考になる3つの事例をみていきます。
【事例①】ユニリーバ「転職しなくても、試せる」
異動や昇進だけにキャリアを限定せず、本業を続けたまま社内プロジェクトに参加できる仕組みを整えました。つまり、「社内に選択肢を広げた」ということです。結果として、社員自身が「やりがい」を感じやすくなり、離職率の低下にもつながっています。
【事例②】シュナイダーエレクトリック「人を丸ごと動かさない」
異動のような大きな動きではなく、スキル単位で、短期間だけ関わる。国や部門を越えて「力を借りる」発想で、仕事を前に進めるやり方です。
「人を動かす」のではなく「スキルを動かす」という発想の転換が、業務の柔軟性を大きく高めました。
【事例③】IBM「スキルを経営資源にする」
職務や肩書きではなく、スキルを経営資源として捉える姿勢を徹底しました。「誰がどんな力を持っていて、それをどこで使えるか」を常に把握し、組み替えられる状態にしています。これにより、新しいプロジェクトに必要な人材を素早く見つけられるようになっています。
「大企業だからできる」で終わらせないために
「いや、それは一流企業の話でしょう」
「うちとは世界が違う」と思った人もいるはずです。
でも、大事なことは、「彼らは何をシステムとして導入したか」ではなく、「何を前提にしなくなったか」ということです。

3つの事例に共通する考え方は、実はとてもシンプルなもの。
◎人をポジションに固定しない
◎フル異動を前提にしない
◎仕事を小さく切り出し、関われる余白をつくる
つまり、「社内人材市場」という考え方の本質は、システムの導入ではなく「仕事の考え方の転換」なのです。
「社内人材市場」という言葉は、英語では「ITM」と呼ばれます。
ただ、その名前が示唆しがちな「市場を作る」という大げさなイメージとは逆に、その本質はもっとシンプルなところにあります。
それは、「仕事とスキルの組み合わせを、固定しない」という発想です。「この仕事、全部一人に任せる必要がある?」
「一部だけ、別の人が関われないか?」
「短期間でも、力を借りられないか?」
こういった問いを、日常的に出せる状態にすること。それが、社内人材市場の実体です。「仕組みを作る」という話ではなく、「問いかけを続ける」という習慣の話です。
中小企業にこそ、やりやすい理由がある
「うちは人数も少ないし、そんなものは作れない」と思うかもしれません。でも、実は逆だと思います。
人数が少ないからこそ、動きやすい。大企業のような複雑なシステムは必要ありません。中小企業に必要なのは、以下のような小さな一歩だったりします。
① 「〇週間だけ手伝ってほしい仕事」を言葉にする
「なんとなく忙しい」という状況を、「この業務、〇週間だけ誰かに手を貸してほしい」という言葉に変える。それだけで、周りの人が動けるようになります。
② 部署を越えて、手を挙げられる余地をつくる
「あの部署の仕事に興味がある」という声が出やすい空気に変える。制度や組織図を変える前に、「言えるようにする」だけで、社内の流通が始まります。
③ 「得意」「経験あり」「勉強中」くらいのスキル共有で十分
立派なスキルデータベースは必要ありません。チーム内で「私はこれが得意」「これは経験がある」という共有があれば、「誰に頼むか」の選択肢が自然に広がります。
AIも専用ツールも、最初はいりません。必要なのは、「この仕事、誰か関われないかな?」と口に出せる”空気感”です。
なぜ、それだけで組織が変わるのか?
「そんなことで、本当に変わるの?」と思いがちですが、これが変わる一歩なのです。
人は、「忙しいから辞める」のではありません。(もちろんそのケースもありますが)
「ここじゃ広がらないな…」と感じたときに、”静かに”離れていくのです。社内に「挑戦の余白」があると感じられると、自分のスキルが別の形で役に立てるかもしれないという希望が生まれる。その「希望」だけで、人の踏みとどまり方は大きく変わります。
これは、組織の規模の問題ではありません。「人がどこに動けるか」という構造の問題です。中小企業であっても、その構造を少し変えるだけで、組織の「息」が通るようになります。
まとめ:自社に置き換えるためのポイント
ここまでの話をまとめると、「社内人材市場」という考え方の本質は以下の3つです。

① 「採れないなら、組み替える」という視点にある
採用の難しさに直面したとき、「もっと採る」だけでなく、「社内の人をどう動かすか」という選択肢を持てるようにすること。これが、現実的な対応の一つです。
② 大企業の「完成形」をそのままやる必要はない
ユニリーバやIBMの事例は、参考にすべき「考え方」です。自社のサイズに置き換え、「小さく始める」ことが現実的です。完璧な制度や仕組みでなくていいので、「言えるようにする」ことが最初の一歩。
③ 「社内に余白があるか」を意識してみる
「あの仕事に興味がある」「あの人の力を借りたい」と言える空気があるかどうか。そこが、組織の柔軟性の源になっています。まず「今のうちの組織に、余白があるか」を確認してみることです。
「人が足りない」と嘆く前に、「人を縛っていないか」を見直してみる。社内人材市場という考え方は、そのための静かな問いかけです。
【出典】Unilever / Schneider Electric / IBM の各社の公開資料・プレスリリース:本記事は海外の先進企業の取り組みをもとに作成しました。一部の情報は原文の解釈に基づいています。





