TEL : 06-6147-7812 FAX : 06-6147-7816
〒550-0004 大阪市西区靭本町1丁目11番7号 信濃橋三井ビル 3F
トップページ末永ブログ

末永ブログ

SUENAGA Blog
sub_line

なぜ新年は決断しやすくなるのか?|心理学が示す「心機一転」の効果

なぜ新年は決断しやすくなるのか?|心理学が示す「心機一転」の効果

年が変わっただけなのに、少し前向きになる不思議

あけましておめでとうございます!
皆さん、どんな年末年始を過ごされましたか?
毎年感じることですが、新年を迎えるとなんだか自動的にリフレッシュされた気持ちになりますよね。

実際のところ、仕事の内容や環境が劇的に変わったわけではないのに、なぜか新年をむかえると、気持ちだけは少し前を向く。「今年は少し違う気がする」「何かを変えたい」と感じる人は少なくないと思います。

この“新年特有の熱”について切り取った有名な言葉があります。
『トム・ソーヤーの冒険』の著者である作家マーク・トウェインは、新年の抱負についてこう書きました。

“New Year’s Day: Now is the accepted time to make your regular annual good resolutions.”
「新年:今こそ、毎年恒例の良い決意をするべき時である。」

実はこの言葉のあとには、「来週になれば、いつものように、その決意で地獄を歩み始めてください」(Next week you can begin paving hell with them as usual.”と続くんですが(笑)
ユーモアたっぷりのこの言葉の裏側には、ある真理があります。

新年は、個人のやる気以前に「世の中が一斉に区切る」タイミングであり、だからこそ多くの人が、少しだけ前を向けるということです。

人はなぜ「区切り」があると、行動を変えやすくなるのか?

心理学には「フレッシュスタート効果(Fresh Start Effect)」という概念があります。年始や誕生日、年度替わりといった「時間の区切り」を迎えると、人は過去の自分と距離を取りやすくなり、新しい行動を始めやすくなる、という現象です。

この効果は研究でも示されており、世界トップクラスのビジネススクールであるWhartonの研究者らは、「時間的ランドマーク(年始など)」が人の“志向的な行動”を後押しすることを報告しています。
また、ハーバードビジネスレビューでも、誕生日や週初・月初・年初といった節目が、運動など含めた”行動”を促しやすい点が紹介されています。

ポイントは「環境が変わったか」ではなく、「区切りが意識されるか」です。人は時間を連続した一本の線というより、章立てされた物語として捉えがちで、新年はその章の切り替わりとして強く作用するという訳です。

「前向きになる」と「決断しやすくなる」は、実は同じ現象

年始に起きている変化は、単なる気分の高揚ではありません。
区切りのあとには、「これまでの延長で考えなくてもいい」という感覚が生まれやすく、結果として「決断」が前に進みます。

◎去年は踏み切れなかった判断を、今年ならできそうに感じる

◎ずっと迷っていたことに、「一度決めよう」と思える

◎完璧でなくても、まず動いてみようと考えられる

この感覚を、経営の視点から端的に表した言葉があります。
経営学者 ピーター・ドラッカー は、意思決定について次のように述べています。

“The best way to predict the future is to create it.”
「未来を予測する最良の方法は、それを自らつくることだ」

ドラッカーが強調していたのは、未来を正確に見通すことではありません。
「完全な情報が揃うまで待つ」のではなく、不確実な中でも方向を決め、意思を置くことこそが、経営における決断だという考え方です。

年始という区切りは、この姿勢を後押しします。迷いをゼロにすることはできなくても、「ここからはこの方向でいく」と腹をくくる。その一歩が、行動を変えていくのです。

だから年始は「小さな決断」に向いている

ここで重要なのは、新年が「大改革」に向いているという話ではないことです。むしろ適しているのは、小さな決断です。

中小企業の現場でも、日常に飲み込まれて先送りされがちなテーマがあります。例えば、以下のようなものです。

◎ずっと属人化している業務を、今年どう扱うか

◎何となく続けてきた会議やルールを、本当に必要か見直す

◎採用や育成について、優先順位を置き直す

こうしたことは、「今すぐやらなくても困らない」ために、つい先送りされます。しかし年始という区切りがあると、「今年のうちに一度は向き合おう」という判断に、ほんの少し踏み出しやすくなります。

この“区切りを小さな決断につなげる”発想を、実に地道な形で体現していた人物がいます。
アメリカ建国の父の一人であり、発明家・思想家でもあったベンジャミン・フランクリンです。

フランクリンは若い頃、自分の人格を改善するために「13の徳目」を定めました。そして彼は、それらをただ掲げるだけで終わらせませんでした。
1週間ごとに徳目を一つだけ重点的に意識し、できなかった日は、手帳に黒い点を1つ付けるというシンプルな方法を取ったのです。

完璧を目指したわけではありません。
むしろフランクリン自身、「黒点が消えない週が何度もあった」と正直に書き残しています。
それでも彼は、この仕組みを何年も繰り返しました。

彼の有名な言葉に、次の一節があります。

“Resolve to perform what you ought; perform without fail what you resolve.”
(やるべきことをやると決めよ。決めたことは、必ず実行せよ)

ここで注目したいのは、フランクリンが語っているのが「高い理想」ではなく、「決めること」と「実行に乗せる仕組み」だという点です。
新年に大きな目標を掲げることよりも、「何を決めるか」「どう続けるか」に重きを置いていたということです。

年始に向いているのは、まさにこの発想です。
完璧な計画や壮大なビジョンではなく、「今年はこれを扱う」「これは一度やめてみる」といった、方向性レベルの決断。それだけで、日々の判断は少しずつ変わっていくはずです。

心機一転を“気分”で終わらせないために

フレッシュスタート効果は、永続的なものではありません。仕事が本格的に動き出し、目の前のタスクに追われるようになると、判断の基準は自然と「これまで通り」に戻っていきます。

だからこそ、年始に感じた前向きさや決断意欲を、そのまま流してしまうと、気づけば去年と同じ状態に戻ってしまう。「そのうち考えよう」は、多くの場合、そのまま一年が過ぎてしまう合図でもあります。

心機一転を活かすために必要なのは、強い意志や高いモチベーションではありません。大切なのは「何かを始める」よりも、「何をどうするかを言葉にする」ことです。

個人であれば、「今年はこれを優先する」と決める。
組織であれば、「このテーマについては、今年一度整理する」と共有する。
それだけでも、判断の軸は変わっていきます。

年始は、その言語化を行うための、数少ない“自然なタイミング”です。
節目を味方につけられるかどうかは、設計の問題と言えるかもしれません。

まとめ|年始は魔法ではない。でも、確かに力はある

もちろん、年が変わったからといって、すべてが自動的に良くなるわけではありません。私たちは日々生きている中で、仕事、生活、家族、友人、健康・・・あらゆることを考えなくてはいけません。

それでも、人は「区切り」のあとに、ほんの少しだけ前を向き、決断しやすくなります。この変化は小さく、放っておけばすぐに消えてしまいます。
しかし、その一瞬をうまく使えれば、1年の流れを静かに変えることもできます。

新年は、無理に頑張るための時期ではありません。「今年は何を大切にするのか」を、落ち着いて決めるための、貴重なタイミングです。

その力をどう使うかが、今年を「同じ一年」にするか、「少し違う一年」にするかを分けていくのかもしれません。

 


【引用】
Fresh Start Effect (Wharton Faculty Platform)/HBRの紹介記事(ハーバード・ビジネス・レビュー/Benjamin Franklin “Resolve to perform what you ought…”(nationalhumanitiescenter.org)/Peter F. Drucker, Management Challenges for the 21st Century ほか