末永ブログ
仕事が進まない原因は「優先順位のズレ」だった|中小企業によくある停滞とは?
2025年12月8日

1. いつまでたっても進まない…優先順位が揃わない原因とは?
多くの中小企業で起きている「優先順位のズレ」問題とは?
チーム内で業務が滞っている…うまく回らない…
そんな時、実は”現場”では必ずしも大きなトラブルが起きているわけではありません。むしろ、その多くは「誰かが手を止めてしまった」「思った役割と違う作業を始めていた」など、”ほんのわずかなズレ”から始まっていたりします。
気づかないうちにボールが宙に浮き、次の人に渡るはずだったタスクの“落としどころ”が曖昧になる。すると、遅れは数時間から数日に広がり、案件や業務全体の動きが重くなっていきます。
現場のリーダーが「今どこで止まっているの?」「誰が何を、待っている状態なのか?」と状況を把握しようと奔走しますが、情報は断片的だったりします。そうすると、判断のタイミングはどんどん難しくなるのです。
これは、“優先順位の揃い方”が少しずつ崩れていく自然現象です。
その理由を辿ってみると、個々のスキル不足よりも”意思決定の順番”が揃っていないことが原因であることがよくあります。だからこそ、優先順位を“個々の感覚”に任せすぎず、あらかじめチームの認識としてすり合わせておくことが重要なのです。
例えば、同じ目標に向かって動いているはずなのに、
あるメンバーは「緊急度」を重視して進め、
別のメンバーは「関係者の多さ」を優先して手を付ける。
結果として、重要なタスクが後回しになったり、本来なら連動して進むべき動きが噛み合わなくなったりします。
そして、この“優先順位のズレ”は、組織の規模が小さいほど影響が顕著になります。特に中小企業では、以下の構造的な特徴がその背景にあります。
~~中小企業の構造上、起こりやすいこと~~
●役割が広く、一人が担う範囲が大きい
●上司の判断基準が言語化されていない(暗黙知化している)
●緊急対応が入りやすく、計画が崩れやすい
●「どれが最優先か」をすり合わせる場が不足している
たった一つの優先度のズレが、案件・チーム全体の停滞につながります。
誰が特段悪いわけでもなく、全員のペースが少しずつ乱れていく—中小企業では特に、そんな場面をよく目にします。
あらゆる調査でも、この悩みがいかに多くの組織で共通する“構造的な課題”であることが明らかになっています。
「仕事の優先順位づけが苦手」と回答したビジネスパーソンは「53%」
「優先順位の不一致がチーム生産性を低下させている」と回答したマネージャー層は 「71%」にも昇ります。
「職場の生産性低下の要因」の第1位が、「優先順位の認識ズレ」
つまり…優先順位がズレてしまうことは「性格の違い」や「理解力」の問題ではありません。
判断基準が共有されていないところに問題があるのです。いわば、“共有地図がない状態”でチーム全員が別方向に向いていることになるので、どれだけ個人が頑張ってもスピードが出ないのは当然なのです。
2. ズレが起きると、現場で何が起こるのか?
優先順位が揃わない状態を放置すると、現場では知らない間に問題が進行していきます。
①判断が遅れ、意思決定にブレーキがかかる
上司の判断を“待つ時間”が増えることで、組織のスピードが確実に落ちます。
実際に、政府が毎年国会に提出する年次報告書『中小企業白書』の中でも「意思決定スピードの低下は競争力に直結する」と繰り返し指摘されています。
②「自分でやったほうが早い」が常態化し、育成が止まる
優先順位が共有されていないと、任せた仕事が「思った通りの順番」で進まないため、任せたリーダーはつい「だったら自分でやる」と判断してしまいます。これは結果として、部下の成長機会を奪うことになるのです。
③業務が積み上がり、負荷が偏る
優先順位の基準がないまま仕事が流れ込むと、「できる人」「早い人」に仕事が集まります。そして、その偏った仕事の負荷が、離職率を高めることにも繋がってしまいます。
つまり優先順位のズレは、“現場の停滞”と“人が育たない構造”を同時に引き起こしてしまう、非常に深刻な課題なのです。

3. 優先順位を揃えるための「3つの基準」
優先順位は“感覚”で揃うことは、なかなか無いものです。そのため、チーム全体で共有すべき「判断基準(優先の物差し)」が必要です。
中小企業で実践しやすい「3つの基準」を解説していきます。
■基準①:インパクト
「どの業務が、最も成果に直結するか?」
リターンの大きい仕事に時間を使う、という原則です。
■基準②:緊急度
「いつまでに、どれくらい急いで進める必要があるか?」
期限の明確化は、誤解を圧倒的に減らします。
■基準③:依存関係
「誰の作業が、どこで止まり、どこで連鎖するか?」
プロジェクト全体の流れを意識するための基準です。
チーム内でこの3つを“共通言語”として持つだけで、多くの中小企業が抱える
「思っていた順番と違う」問題が減っていきます。
5. 実践に移すための「3つの場の設計」
優先順位を揃えるには、判断基準だけでなく “場の設計” が欠かせません。
ここでは、現場で効果が高かった2つの案をご紹介します。
① “日次5分”の優先順位合わせミーティング
Googleの組織行動研究プロジェクトでも、「短いミーティングのほうが優先順位が明確になりやすい」と示されています。
ポイントを明確に決めて、その事項を5分で共有する。それだけで、1日の迷いが消えます。
② 1on1は「状況確認」ではなく「優先の調整」に使う
優先順位のズレの多くは、“上司が期待している順番が明文化されていない”
ことから起きます。
だからこそ、1on1では「なぜこの優先順位なのか(背景)」「次はどの順番で進めてほしいのか(意図)」を解きほぐして共有します。
6. 優先順位が揃うと、組織はどう変わるのか?
優先順位が共有されるだけで、現場には目に見える変化が起きます。
会議が短くなる。判断スピードが上がる。「任せる」が機能し始める。業務の偏りが減る。若手が動きやすくなる・・・そして何より、チーム・組織の温度が上がり、前に進む空気が生まれます。
優先順位は、単なるタスク整理ではありません。優先順位がチーム内で揃わないのは、誰かの努力不足ではなく「判断基準の不揃い」という構造の問題だということを認識することが大事です。
チーム全員の考え方が揃うと、同じ人数、同じチームでも驚くほど前に進むように変わります。
参考・出典
・パーソル総合研究所『働く100のカベ —優先順位づけ— 調査結果』
・HR総研『生産性向上の障害に関する実態調査』
・日本能率協会『組織の生産性に関する調査』
・リクルートマネジメントソリューションズ『職場のコミュニケーション実態調査』





